シンガポールは様々な国籍の人間が集う、移民の国です。SF映画に出てきそうな近未来都市のような風景が広がる街ですが、そこに住むシンガポール人とはどんな人たちなのか?今回は彼らの気質・考え方、仕事するにあたってうまくやる方法について、述べたいと思います。
シンガポールとはどんな国なのか?
シンガポールはいわゆる都市国家で、国の大きさは東京23区よりはるかに小さい面積です。シンガポールは1965年にマレーシアから独立した新しい国です。シンガポールはアジア圏の移民の国で、主に中国系をルーツに持つ人々(例えばマレーシア・インドネシア、ベトナムを中心とした東南アジア諸国、台湾・中国など)や、フィリピン、インド、パキスタン出身の人々が、新しい人生を求めて移民する国です。日本人も大勢います。
言語
言語は英語(シンガリッシュ)。シンガリッシュとは、英語と中国語の一部が混じったような特徴ある英語です。単語や文法が、イギリス英語、アメリカ英語などとは異なる部分があります。また、話し方も欧米人とは異なり、端的で論理的な話し方ではなく、中国人・韓国人・日本人などが話すような話し方を、英語で話しているような感じである為、英語が苦手な外国人にとっても親しみやすい国です。
シンガポール人の英語力は、移民してくる人により多少差があります。かつてシンガポール人による面接を受けた際、その方が何を話しているのか分からず、転職エージェントの男性(イギリス人)に相談したところ、エージェントの男性も「何を言っているのか、正直よくわからないので、きっとこんなことがいいたいのだろうと予想して聞いている」という残念なコメントがありました。
またシンガポール人の上司の下で働いていた時、あまりにも話している内容がわからず、同僚(アメリカ人)に相談したところ、「話が長い上に、吃ってはっきり言わないから、何を言っているのか聞こえない」と身も蓋もない回答であったことがあります。ただ人間の耳は慣れますし、英語力も上達するもの。シンガリッシュも理解できるようになります。
また中華系のルーツをもつ人々は中国語(マンダリン)も話します。通常オフィスで話す言語は中国語(マンダリン)です。話せない華僑の人も中にはいますが、オフィスで仲間外れにされるようです。私は中国語を少し話しますが、それだけで大歓迎されました。
気質
シンガポールは歴史の浅い新国家です。移民から成り立つ国で、様々な民族で構成されている為、一言でシンガポール人の気質を言うのはなかなか難しいですが、キャリア志向気質であることが挙げられます。シンガポールは教育に対する意識が高い国です。勉強はよくでき、テストの成績も良く、学歴も高いのが特徴。そういう点では、シンガポール人は優秀です。
ただ、ソフトスキルが低い傾向があります。ビジネスで感情を表に出すことは、欧米諸国ではあり得ないことですが、シンガポール人の中には感情をむき出しにして、大声を上げたり、怒鳴り散らしたり、2-3人がかぶせて会話をしながら、ビジネス会議をしている人がいます。それが良いことだと信じているようですが、欧米の社員がドン引きしている様を何度も目にしたことがあります。
感情をコントロールするのは、個人の問題ではありますが、その影響で予定よりも会議が長くなったり、他人の時間を奪うということに罪悪感がない、という特徴があります。何かを我慢したり、時間がお金より重要であることを、教育段階でしつけられなかったのかもしれません。欧米諸国から時間にだらしないと思われる部分です。
人生には勉強以外に大切なスキルがあります。近年ではエモーショナルインテリジェンスという言葉で表現されています。その一つにコミュニケーションスキルがありますが、ただやみくもに相手と話せばよいというものではありません。「話せばわかる」というのは、双方が同じような経験値やスキルがあって成立するものです。また、相手を理解しようという姿勢がなければ、話をしてわかる状況には至りません。
わからないことは人に聞けといいますが、聞いたら教えてくれるものだ、教えてくれない人はきっと理解していない人なのだ、と考えてしまうところが、シンガポール人にはあります。悪く言うと単純で思慮深さに欠ける、ということになりますが、ポジティブに捉えると、眼の前にある事実のみで判断し深読みしない楽観さが、押しの強い彼らの力となっています。シンガポール人は勉強熱心ですので、何が問題なのか順序だてて説明し、理解してもらえば改善に向けて努力します。
ビジネス
シンガポール人のプレゼン
シンガポールの人はビジネスでのプレゼンが上手だと自負していることがあります。基本的にプレゼン時間は極めて長いのが特徴。パワーポイントでプレゼン資料を準備し、どう話すのかという原稿を準備し、それを完璧に暗記してプレゼンに望む、というのが文化的にあるようです。
以前、シンガポール人が上司であったことがあり、ビジネスのプレゼンを指示されたのですが、プレゼンの資料のみならず、原稿のチェック、原稿の内容100%暗記しなければならないと言い、小さな密室に缶詰状態で暗記を強制させられたことがあります。これは、恐喝とパワハラに相当するのですが、シンガポールは中国をルーツとする華僑のエリアであり、上司の指示は100%従わなければいけない、という文化的特徴があります。
自分はアメリカ式の生きたプレゼンを主流としていた為、そういったスタイルのプレゼンを行ったことがなく、大変驚きましたが、幸いにもうまく対処し、無事にプレゼンを済ませました。後日、この状況が第三者の密告により人事部と経営陣にリークされ、この上司は厳しい処置を受けるのですが、シンガポールではこういったことは日以上茶飯事だとシンガポール人たちは話しています。
職場での考え方_同僚=友達
仕事とは一日の中で8時間と長い時間を占めます。家族や友人よりも長い時間を過ごすのが、会社の同僚。同僚の中には、公私共に友達という人もいます。このあたりの線引が、シンガポール人と他の国では少し異なります。例えば欧米諸国はプライベートと仕事の人間関係をきっちりわけています。年齢が高い世代(40代以降)だと、その傾向が顕著です。
日本を含め、いわゆる先進国の人々は、ビジネスの連絡先は交換していても、プライベートの連絡先よほどでなければ交換せず、私生活の出来事を共有しません。ビジネスのSNSであるLinkedIn でさえも、接点を持たない人間からのつながり申請を受け付けない人は大勢います。LinkedInの情報は自身のキャリアの足跡であり、人脈は信頼に基づいて築かれる為です。
これに対し、シンガポール人は見知らぬ人であっても、どんどん繋がり申請をします。見知らぬ人に対しても、信頼のあるなしに関わらず、どんどんアプローチをし、自身の要求を伝えていくのが特徴です。返事がなかったとしても、へこたれません。使うものはすべて使うという考えです。
余談ですが、中国では「一度友だちになると、その関係は一生続く」といわれています。シンガポールは中国にルーツを持つ人々が多い為、仕事であれプライベートであれ、一度知り合いになるとそれはイコール友達、ということのようです。
シンガポール人とうまくやる方法
シンガポール人はお金・地位・名誉を重要視します。正義・義理・心といった精神的なものはあまり重要視しません。楽観的でシンプルである為、うまくやる方法はいろいろあります。例えば仕事であれば、自分の手柄をシンガポール人と共有する形にする、といった具合です。実際彼らの尽力があったかどうかは別として、何か大きなことを成し遂げる時に、彼らを巻き込む形を取ると、彼らのお金・出世・名誉に繋がります。尚、逆のパターンはありません。
また、共有しても差し支えのないプライベートの出来事を共有するのも効果的です。シンガポール人は、いわゆる侍魂のようなものは全くない為、他人のゴシップはペラペラと周囲の人間に話してしまいます。相手がどう思うかといったことは関係ありません。他人のことを面白おかしくお話するのが、好きなのです。シンガポールは小さな町国家で、仕事中心の生活。大半はオフィスと家での生活です。ですから、そういった話題を提供してくれる人には、好感を抱きます。
またシンガポールは女性が強く、男女平等意識が強いことでも知られています。それは良いことですが、強すぎると国籍を超えて職場やビジネス上で摩擦が生じます。自己主張のしすぎは、先程のエモーショナルインテリジェンスの低さにつながるのですが、お話相手になってあげると、シンガポール人から好感が持たれます。彼らの押しの強さは、味方となると心強いものです。
最後に、自分が悪かったとしても謝らないのが、シンガポール人の特徴です。慣れるまで、うっとうしく感じますが、上手くやっていくために相手との違いを理解しておきましょう。
シンガポール人におみやげを
シンガポールへの出張、あるいはシンガポールから来客がある場合、小さなおみやげを準備しましょう。日本らしいものがよいです。個人的経験ですが、私は日本の靴下、文具、お菓子などを袋に入れて、小さなおみやげを作りました。女性であれば洗顔料や化粧水など、日常的に使えるものも歓迎されます。
シンガポール人にしてはいけないこと
シンガポールは中国にルーツをもつ、いわゆる華僑です。面子をとても大切にします。また、自分より立場が上の人のいうことは絶対というのが上下関係の特徴です。仮に倫理に反する行動(例えば不倫)や、誠実でない行動(例えば、相手の名誉を傷つける行動や成果を横取りする行動)、横領(例えば会社の経費を私用で使う)を彼らが行っていたとしても、公の場でそれを暴露してはいけません。恥を欠かされたとなると、見境なく仕返しをしてきます。とても危険ですので、そういった事態に遭遇した際は、なるべくかかわらないようにしましょう。
まとめ
- シンガポールはアジア各国出身者が集う、移民の国。
- 中華系のルーツを持つため、実態として共産主義的な一面がある。
- シンガポール人と上手くやるために、彼らの面子問題には触れず、ゴシップネタを提供し、仕事の成果を一部シェアする。
シンガポールに限らず、各国特徴があります。同じ国だからといって、人にはそれぞれ個性があります。まずはその国の傾向を理解し、すこしずつ相手を理解していきましょう。シンガポールの人々は美味しいものを食べるのも大好きですが、一緒に食事をするというのも仲良くなるポイント。もしケンカをしてしまったとしても、おみやげを渡したりして、お話してみましょう。きっと仲直りできるはず。皆様が、シンガポールの方々とプライベートやビジネスで素晴らしい時間を過ごすことを、心より応援致します。
コメント