中東情勢が、世界のエネルギー供給を揺るがしています。2026年10月、サウジアラビアの国際空港への攻撃が発生。さらに、原油輸送を支えるパイプラインなどの重要インフラにも、新たな攻撃の脅威が広がっています。一方、原油市場は中東からの原油輸出量は回復しているのに、原油価格が高いのはなぜでしょう。実は、現在の問題は単なる原油不足ではありません。ホルムズ海峡の安全、タンカー不足、輸送費や保険料の高騰、ガソリン・軽油など石油製品の供給不足が複雑に絡んでいます。原油価格だけでなく、日本の物価、企業業績、株価にも影響している中東問題。今回は中東で何が起きているのか、今後の想定されるリスクをわかりやすく整理します。
サウジアラビアの国際空港が攻撃された
【事実】攻撃対象拡大
2026年10月10日、サウジアラビアの首都リヤドにあるキング・ハリド国際空港が攻撃され、少なくとも12人が死亡、300人以上が負傷しました。Reutersによると、イランと関係の深いイエメンの武装組織フーシー派による攻撃と報じられています。さらに10月26日には、フーシー派がサウジアラビアの東西原油パイプライン(East-West Pipeline)の送油施設と国際空港を、27日にはラスタヌラ製油所を攻撃したと主張しました。ただし、この新たな攻撃について、報道時点でサウジアラビア政府による確認はありません。攻撃を主張したことと、実際に施設が被害を受けたことは区別する必要があります。
【参考報道・出典】
Reuters「Houthi strike on Saudi airport kills 12, worst attack on kingdom in a decade」(2026年10月10日)
Reuters「Oil prices rise on Yemen fighting, Saudi refinery attack」(2026年10月28日)
【分析①】
ここで注意したいのは、「フーシー派の攻撃=イランが直接サウジアラビアを攻撃した」とは断定できないことです。フーシー派はイランと緊密な関係を持つ武装組織ですが、個々の攻撃をイラン政府が直接命令したかどうかは別の問題だからです。しかし、イランと関係の深い勢力が、サウジアラビア国内の重要インフラを攻撃できる能力を持っていることが改めて示されました。
空港だけなら直接的には原油供給に影響しないかもしれませんが、石油関連施設や製油所、輸出港と広がれば話は変わります。実際、サウジアラムコ関連施設にも攻撃が及んでいます。また石油設備が破壊されなくても、戦争リスクが高まればタンカーの運賃や保険料が上昇します。つまり、原油価格上昇 → 輸送費上昇 → 保険料上昇 → 企業利益圧迫という経路が生まれます。
サウジアラビア自身にとっても、石油だけの問題ではありません。航空、観光、国際イベント、海外投資など、石油以外の産業育成を進めている最中です。地政学リスクが長期化すれば、サウジ経済全体へのリスク上昇につながります。
【分析➁】
さらに重要なのが、サウジアラビアの東西パイプラインです。このパイプラインは、東部の産油地域から西側の紅海沿岸へ原油を運ぶための重要なインフラで、ホルムズ海峡を通らずに原油を輸出できるルートです。IEAによると、2026年9月11日にも東西パイプラインがドローン攻撃を受け、一時的に送油が停止しました。もし、ホルムズ海峡に加えて迂回ルートまで使えなくなれば、サウジアラビアの原油輸送能力は一段と制約を受けます。さらに、輸送施設の安全性が疑われれば、実際に原油輸出が止まらなくても、保険料や輸送コストの上昇につながります。
【参照・出典】
国際エネルギー機関(IEA)「The soaring cost of shipping is lifting the price of oil for consumers」(2026年10月21日)

ホルムズ海峡の問題は、なぜ日本に重要なのか?
【事実】世界の海上石油貿易の約4分の1が通過
ホルムズ海峡は、イランとオマーンに挟まれた海峡で、ペルシャ湾と外洋を結ぶ重要な海上輸送ルートです。米国エネルギー情報局(EIA)によると、2025年上期には日量約2,090万バレルの石油が通過していました。これは、世界の石油消費量の約20%、世界の海上石油貿易量の約4分の1に相当します。
一方、2026年は米国・イラン間の戦争や船舶への攻撃によって、安全な通航が大きな問題となっています。IEAによると、2026年9月のホルムズ海峡を通る石油輸送量は日量1,090万バレルまで回復しましたが、戦争前の水準には戻っていません。
【参照・出典】
米国エネルギー情報局(EIA)「World Oil Transit Chokepoints」
国際エネルギー機関(IEA)「Oil Market Report – October 2026」(2026年10月14日)

【分析】日本の原油依存構造がリスクになる
日本にとって、この問題は特に深刻です。資源エネルギー庁によると、2024年度の日本の原油輸入は約95.1%を中東地域に依存していました。日本は原油を国内でほとんど生産できず、輸入に頼っています。そのため、中東で原油輸送が停滞すると、「輸送コスト上昇」→「国内の燃料価格上昇」→「企業の生産・物流コスト上昇」→「物価上昇・企業利益圧迫」→「個人消費圧迫」という形で影響が広がる可能性があります。
株式市場では、航空、陸運、化学、電力、製造業など原油高の影響を受けやすい企業には逆風となる一方、石油開発や一部の資源関連企業には追い風となる可能性があります。日本には国家備蓄や民間備蓄などの石油備蓄制度があります。したがって、海峡で問題が発生したからといって、直ちに国内のガソリン等が不足するわけではありませんが、原油問題がどれくらい長引き、備蓄や代替調達でどこまで補えるかがポイントとなります。
【参照・出典】
経済産業省・資源エネルギー庁「2025—日本が抱えているエネルギー問題(前編)」2026-06-12

経済産業省「Release of National Crude Oil Stockpiles」(2026年3月24日)
原油輸出量は回復しているのに、なぜ価格が高い?
【事実】中東の原油輸出は戦争前の75%超まで回復
IEAの2026年10月月報では、中東の原油供給に回復が見られます。2026年9月の湾岸産油国からの原油輸出量は日量1,390万バレルとなり、8月と比べて440万バレル増加しました。戦争前の75%超に相当する水準です。また、ホルムズ海峡を迂回するルートの輸送量も増加しています。一方で、10月に入り中東のエネルギー関連インフラやタンカーへの攻撃が再び拡大しており、回復が継続するかは不透明です。
【参照・出典】
国際エネルギー機関(IEA)「Oil Market Report – October 2026」(2026年10月14日)

【分析】原油があっても、安全に運べるとは限らない
通常、供給量が増えれば原油価格には下落圧力がかかります。しかし、現在は供給量の回復だけで価格が決まる状況ではありません。原油を安全に運ぶためのコストが急上昇しているからです。IEAが10月21日に公表した分析によると、10月中旬、中東からアジアまで大型タンカーで原油を輸送する費用は、1バレル当たり37ドル超に達しました。これは戦争前の5倍以上です。
通常、原油の輸送費は調達価格の一部にすぎません。しかし、現在は下記のような背景があります。
- タンカーの航路変更や輸送距離の長期化
- 港湾周辺の混雑と積み替えの増加
- 船舶の安全確保や戦争保険の負担
- タンカー不足
IEAは、輸送費の急上昇がアジアや欧州の製油所の利益を圧迫していると分析しています。つまり、原油の生産量が回復しても、安く安全に届けられなければ、エネルギー供給問題は解決しない、ということです。
【参照・出典】
国際エネルギー機関(IEA)「The soaring cost of shipping is lifting the price of oil for consumers」(2026年10月21日)

原油よりも深刻?軽油など石油製品の供給不足
【事実】原油輸出は回復しても、精製品輸出は戦争前の約40%
原油と石油製品は、別のものです。原油は、製油所で精製されて初めてガソリン、軽油、灯油、LPガス、ジェット燃料などの石油製品になります。現在、原油輸出よりも回復が遅れているのが、この石油製品です。IEAによると、中東からの石油精製品輸出量は、戦争前の2026年2月には日量約470万バレルでした。しかし、2026年9月には日量約190万バレル。戦争前の約40%にとどまっています。
また、世界の軽油・ガスオイル輸出量は9月に前年同月比で日量約70万バレル減少しました。IEAは、軽油など中間留分の供給不足が2027年まで続く可能性を示しています。
【参照・出典】
国際エネルギー機関(IEA)「Oil Market Report – October 2026」(2026年10月14日)

【分析】軽油不足は物価と企業利益に波及する
なぜ、軽油不足は経済に大きな影響を与えるのでしょうか。軽油は、トラック輸送や建設機械、農業機械など幅広い産業で利用されています。軽油価格が上がると、物流業者の燃料負担が増えます。運送料金が上がれば、小売業や製造業の仕入れコストも上昇します。企業が値上げできなければ、利益率が低下します。逆に、コストを販売価格に転嫁すれば、消費者の生活費が上がります。その結果、個人消費が弱まり、企業の売上や株価に悪影響が及ぶ可能性があります。
さらに注目したいのが、製油所の問題です。原油を高い輸送費で調達しても、十分な利益が得られなければ、製油所は稼働率を引き下げる可能性があります。その結果、石油製品不足がさらに深刻化するという悪循環も考えられます。原油不足だけでなく、石油製品を製造して届ける能力そのものが問題になっているのです。
原油価格、今後どうなる?
【事実】ブレント原油は依然として高値圏
2026年10月28日、北海ブレント原油先物は1バレル115ドル前後で取引されました。依然として高値圏にあります。米国とイランの間では外交交渉が進められていますが、原油価格には軍事的な供給不安と和平への期待が交錯しています。
【参考報道・出典】
Reuters「Oil prices rise on Yemen fighting, Saudi refinery attack」(2026年10月28日)
【分析】市場は実際の不足と将来への警戒を価格に織り込む
原油価格には、実際の需給だけでなく、今後の供給が途絶える可能性も反映されます。たとえば、サウジアラビアの石油施設が攻撃される懸念が高まれば、実際に輸出が停止する前から原油価格が上がることがあります。ただし、現在の価格上昇を将来への恐怖だけで説明するのは適切ではありません。
IEAによると、2026年9月末の世界の確認可能な石油在庫は、戦争前の2月末と比べて約5億900万バレル減少しました。つまり、市場を支える備蓄や在庫の余裕もなくなってきています。一方、高価格が続けば、企業や消費者は燃料使用を抑えようとします。世界景気の減速も原油需要を減らす要因になります。今後の価格は、供給回復による下落圧力と、戦争・輸送・在庫不足による上昇圧力のどちらが強くなるかで変わるでしょう。
【参照・出典】
国際エネルギー機関(IEA)「Oil Market Report – October 2026」(2026年10月14日)

中東情勢が日本株に与える影響
【分析】原油高でも、すべての企業が不利になるわけではない
原油高が企業業績に与える影響は、業種によって異なります。
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業種 |
想定される影響 |
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石油・天然ガス開発 |
資源販売価格上昇が収益にプラスとなる場合 |
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海運 |
タンカー運賃上昇が一部企業には追い風。ただし運航・保険リスクも拡大 |
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航空 |
ジェット燃料高によるコスト増加 |
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陸運・物流 |
軽油価格上昇が利益を圧迫 |
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化学・素材 |
原料高が利益率低下につながる可能性 |
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電力 |
燃料調達コスト上昇。ただし電源構成や料金制度により影響は異なる |
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小売・食品 |
物流費・包装資材費などの上昇 |
【個人の見解】
特に注意したいのは、「原油高だから資源株は上昇する」と単純に判断しないことです。企業が原油を生産しているのか、輸送しているのか、精製しているのかによって、収益構造が異なります。例えば、原油高が石油開発企業の販売収入にプラスとなる一方で、原油を購入して精製する企業には調達コストの増加となる可能性があります。
また、海運企業でも原油タンカーとコンテナ船では事情が異なります。株価を考える際には、原油価格の上昇だけでなく、その企業がどこで利益を得て、どのようなコストを負担しているかを確認することが重要です。
【総合分析】3つの点がつながり始めた
現在の中東情勢で最も注意したいのは、戦争リスクが一つの地域に限定されなくなっていることです。東側には、イランとホルムズ海峡があります。西側には、イエメンのフーシー派と紅海・バブ・エル・マンデブ海峡があります。その間に位置するのが、世界有数の産油国サウジアラビアです。
サウジアラビアは、ホルムズ海峡のリスクを避けるために、東西パイプラインで原油を紅海側へ輸送できます。しかし、そのパイプラインにも攻撃が及ぶとすれば、単にホルムズ海峡を迂回すれば問題が解決するわけではありません。さらに、紅海側ではイエメン情勢が輸送の安全を脅かしています。この構造を考えると、今後のリスクは大きく3つあります。今後はこの「第三の影響」も重要になると考えます。
① エネルギー供給リスク
石油施設や輸送ルートへの攻撃によって、原油や石油製品の供給が停滞する可能性。
② 経済・金融リスク
燃料高や輸送費高騰が物価を押し上げ、企業収益や個人消費を圧迫する可能性。
③ 地政学・国際関係のリスク
米国・イラン問題、イスラエルをめぐる問題、サウジアラビア・イエメン問題が相互に影響し、中東各国の外交・安全保障政策が変化する可能性。
戦争が終わっても、原油問題が終わらない可能性
【個人の見解】
現在の中東情勢について、私が特に注目するのは、エネルギー供給網の回復に時間がかかる可能性です。たとえ米国とイランの緊張が緩和し、ホルムズ海峡の通航が正常化に向かったとしても、すぐにすべてが元通りになるとは限りません。損傷した施設の修復、タンカーの再配置、保険条件の正常化、製油所の稼働回復、石油製品の在庫積み増しには時間が必要です。
また、外交面にも注目しています。サウジアラビアなどの中東諸国は、石油への依存を減らすため、観光、金融、AI、データセンター、国際物流などへの投資を進めてきました。しかし、重要インフラに対する攻撃が続けば、海外企業は事業投資を判断する際、これまで以上に安全保障リスクを重視するでしょう。
さらに、米国やイスラエルの軍事行動への反発が中東地域で強まれば、各国の外交関係や経済協力に変化が生まれる可能性もあります。ただし、中東諸国の外交姿勢は一様ではありません。反欧米化が地域全体で進むと断定することはできず、各国の安全保障や経済的利益を分けて考える必要があります。
私は、今回の戦争が世界経済に残す影響は、単なる原油価格の上昇にとどまらないと考えています。エネルギーの調達先をどこにするのか。どの輸送ルートを使うのか。どの国に投資するのか。こうした企業や国家の判断が変化することこそ、長期的に注目すべき影響ではないでしょうか。
まとめ
2026年10月の中東情勢を整理すると、原油の輸出量は回復していますが、世界のエネルギー供給網はまだ正常化していません。ホルムズ海峡では依然として安全な輸送が課題となり、サウジアラビアの重要インフラも攻撃の脅威にさらされています。さらに、原油そのものの輸出回復に対して、軽油など石油製品の供給回復は遅れています。
原油価格のみならず、「ホルムズ海峡の通航量と安全性」「サウジアラビアの石油関連施設・パイプラインの状況」「原油と石油製品、それぞれの輸出量」「タンカー運賃や保険料」「中東をめぐる外交の行方」などにも注意が必要です。中東への原油依存度が高い日本にとって、これらの問題は、日々の生活や企業業績、株価に大きく影響します。重要なのは、一時的な原油価格の上昇だけに注目するのではなく、世界のエネルギー供給と国際関係がどのように変わろうとしているのかを見極めることではないでしょうか。
【筆者について】
この記事は、金融・経済を学んでいる筆者が、複雑なニュースや数字を事実に基づいて整理し、一般人の目線で投資初心者や個人投資家向けにわかりやすく伝えることを目的としています。本文では、確認できる事実とそれに基づく分析、そして筆者自身の見解を記載しています。
【投資に関する注意】
本記事は、公開されている統計・公表資料をもとに、中東情勢・原油・金融市場について筆者個人の分析・見解をまとめたものです。本記事における「事実」は、主として政府機関などの公表資料に基づいています。「分析」はこれらの事実から考えられる市場への影響を整理したものであり、「個人の見解」は筆者自身の考察です。為替、株価、金利、原油価格などの将来の動きを保証・予測するものではありません。
また、特定の金融商品、ETF、投資信託、株式、通貨、貴金属などの購入・売却を推奨したり、投資判断を助言するものではありません。本記事で紹介している「個人の見解」は、あくまで筆者自身の投資に対する考え方です。投資に関する最終的な判断は、ご自身の投資目的、資産状況、リスク許容度などを踏まえてご自身の責任で行ってください。
【参照・出典】
IEA(国際エネルギー機関)「Oil Market Report – October 2026」2026年10月14日

IEA(国際エネルギー機関)「The soaring cost of shipping is lifting the price of oil for consumers」2026年10月21日

EIA(米国エネルギー情報局)「World Oil Transit Chokepoints」2026年3月3日
経済産業省・資源エネルギー庁「2025—日本が抱えているエネルギー問題(前編)」2026年6月12日

経済産業省(METI)「Release of National Crude Oil Stockpiles」2026年3月24日
【参考報道・出典】
Reuters「Houthi strike on Saudi airport kills 12, worst attack on kingdom in a decade」2026年10月10日
Reuters「Houthis say they attacked Saudi oil pumping stations, Riyadh airport as fighting intensifies」 2026年10月26日
Reuters「Oil prices rise on Yemen fighting, Saudi refinery attack」(2026年10月28日)
The Guardian「Gulf states working on multipart peace deal to avert renewal of US-Iran war」(2026年10月28日)
