デジタル化が急速に進む昨今。DX、IoT、AIなど、最新技術を活用した社内システムや改革、新しいビジネスモデルが次々と展開されています。今回は各用語の意味をおさらいしながら、物流・サプライチェーン業界における現在の課題と、IoTを活用した、生産性向上・業務効率化・在庫管理の事例について、みていきたいと思います。
DXとは
DX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)は、企業がAI、IoT、ビッグデータなどの技術を用いて、業務フローの改善(業務効率化)、新たなビジネスモデルの創出のみならず、これまでの伝統的手法からの脱却・企業風土の変革を実現させることを意味します。DX推進はあらゆる企業にとって、変化の激しい時代のなかで市場における競争優位性を維持し続け、日本が国際社会で生き残るための重要なテーマとなっています。
IT化とDXの違い
IT(Information Technology:インフォメーションテクノロジー)は情報技術そのもの、すなわちコンピューター・ソフトウェア・アプリケーションを意味します。海外ではICTという言葉の方が多く活用されています。ICT(Information Communication Technology)は情報通信技術を使って、人とインターネット、その先の人と人とが繋がる技術を意味します。メールやSNS、オンライン通販といったものが挙げられます。
IT化(いわゆるデジタル化)とDXの明確な違いはありませんが、IT化の目的は、ITツールを導入した業務効率化・生産性向上。DXのX(トランスフォーメーション)の目的は、ビジネスモデルの変革や企業組織の改革(働き方・業務効率化の方法)。よって、DXはIT化を包括した形での変革を意味することになります。
IoTとは
IoT(Internet of things)とは、物をインターネットに繋げて遠隔操作をするような技術です。例えば、エアコンとインターネットを繋ぎ、遠隔操作でスイッチオン・温度設定をする、自宅で留守番をしているペットの様子を、取り付けたカメラとインターネットを接続することで外出先で確認する、といった感じです。私達の身近なところで、急速に発達しているのがIoTを使った技術です。
物流・サプライチェーン業界における課題
各業界、DXに取り組みを開始していますが、それぞれ課題が異なります。物流・サプライチェーン業界での課題は、人手不足・長時間労働の恒常化・配送スピード向上への対応・配送事故、です。
人手不足
物流・サプライチェーン業界では、EC市場の拡大により宅配が増加し、配送ドライバーや配送センターでの人手不足が深刻化しています。コロナ問題によりECの需要は増え、業務が増える一方、人手不足問題は加速する状態に。最近ではIoT技術を活用することで、配送ルートや積荷の最適化を行うことができるようになり、業務効率化、人手不足解消が期待されています。
長時間労働
ドライバーの長時間労働は、物流・サプライチェーン業界の大きな課題の一つ。現在では、陸上貨物運送業が過労死の原因1位となっており、長時間労働のストップが求められています。2024年には、トラックドライバーの時間外労働に対して罰則付きの上限が設けられることになりました。この法律により、長時間労働が抑えられることが期待されています。
その一方、ドライバーの方々は今まで残業でこなしていた分の業務を時間内に抑えるために業務効率化していくことが求められるようになります。2024年に向けて、IoTやAIなどの技術を活用した業務改善が強く求められています。
配送スピードの向上
EC市場の拡大により、配達の需要増加と共に、配送スピードの向上も求められるようになりました。即日配達や翌日配達といったスピード感が当たり前となっており、他社との競争が激しくなっています。人手不足が進む中で配送スピードの向上を目指していく為には、倉庫システムの効率化や配送ルートの効率化が不可欠。IoT技術を活用することで、そういった課題への対応も可能となっていきます。
物流における事故
時間内での配送によるプレッシャー、長時間労働からくる疲労が原因で、交通事故を起こすケースが、長い間課題となっている物流業界。ドライバーの命や健康状態が大切なのは言うまでもなく、交通事故にはならなくても、無理な運転により荷物が破損してしまうこともあります。IoT技術を活用することで、業務効率化し、ドライバーが常に万全な状態で運転することができるようになり、様々なリスクを軽減することが可能となります。
また、割れ物や振動に繊細な特性を持つ製品の運搬などに対し、IoTデバイスを用いて情報を取得することにより、万が一輸送中に荷物が破損した場合、データをもとにした原因の追求や改善策の検討が可能となります。
IoT活用の利点
課題の部分で触れてきましたが、物流・サプライチェーン業界にてIoTを活用することによる利点をまとめると、下記の通り。
配送業務の効率化
IoTの活用により、配送業務の効率化が期待できます。トラック等の積載情報や空車情報などのデータ収集をリアルタイムで行うことができるようになります。配車の効率化ができれば、配送コストや人件費の削減につながるとともに、ドライバーの健康維持にも繋がります。
メンテナンスの効率化
物流・サプライチェーン業界には様々な設備があり、その状態をIoTデバイスによりデータ管理することで、設備の異常や異変に早く気づくことができます。従来の方法では、事故が起きてから対応することが多かったですが、事前に未然に防ぐことが可能となります。 これは、現場で働く人々の命を守り、顧客との信頼維持・向上にも繋がります。
在庫管理・データ収集によるトラッキング
IoTを活用することで、倉庫内の在庫数や商品の配送状況をリアルタイムで管理することができるようになります。万が一トラブルが発生した際にも原因の追求やトレーサビリティーが可能となります。また配送中の温度変化や振動情報なども確認することができるようになり、トラブルを未然に防ぐことができるようになります。
物流・サプライチェーン業界でのIoT活用事例
倉庫経路案内による出荷効率の改善
AI(Artificial Intelligence:人工知能)を用いた、倉庫内の経路案内ソリューションを導入することで、出荷効率の改善に繋げた事例が海外であります。導入前までは、ピッキング時の移動経路がフォークリフト操縦者の裁量によって決められていました。人によって生産性に大きな差があった、ということです。
新しいソルーションを導入後、在庫商品と担当者の位置をIoTで把握し、ピッキングまでの最短経路をAIが計算、その案内に従ってカーナビのように移動させる、ということです。これにより、人による生産性の差を埋めることができるようになり、物流・サプライチェーン現場の在庫管理・生産性向上に繋げることに成功しました。
物流在庫のリアルタイム管理
倉庫の大きさには限りがあり、物流・サプライチェーン業界では在庫管理も重要な業務。IoTを活用することにより、在庫情報をリアルタイムで一元管理することが可能になります。これは製造業界でも同じですが、棚卸し業務やピッキング業務において大幅な作業効率化を実現することができます。
医薬品輸送の温度管理
GDP(Good Distribution Practice)に則った流れで行われ、厳格な温度管理での輸送が求められる医薬品輸送、いわゆるコールド・サプライチェーン。これらの輸送は、荷主である製薬会社やライフサイエンス企業より、元々輸送時のデータ提示を義務付けられるケースが多いですが、ここ数年IoTを活用したリアルタイムでの温度管理が浸透しつつあります。
温度計・保冷用ボックス・業務用保冷コンテナーにIoTを導入し、医薬品の輸送中の温度や位置情報といったデータをリアルタイムで収集し、異常事態を早期に発見・対応できる体制を整えています。トラック走行中・空輸中・海運中での対処はできませんが、目的地到着後に迅速に対処することが可能となり、製品保証を最大限に行うことができる為、品質に敏感な顧客の信頼獲得に繋がっています。
科学の進歩により、温度に加えて振動などの要因も考慮する必要がある医薬品輸送(コールドサプライチェーン)に対し、IoTの技術は今後益々不可欠になることが予測されます。
まとめ
- 物流・サプライチェーン業界の課題はドライバーの人手不足・長時間労働・配送スピードなど山積み。
- 物流業界でのIoT活用事例:倉庫の在庫管理・生産性向上・トレーサビリティー、など。
IoT、AIといった最先端技術を活用して最も変革できる業界の一つに、物流・サプライチェーン業界が挙げられています。国際物流においては、複数の企業が関与し、書類関連・予約・追跡・管理など、様々な過程において課題がある為、生産性向上・業務効率化を目的に、IoTやAIが今以上に必要とされていくことでしょう。今後もどのような成功事例が出てくるのか、引き続きチェックしていきたいと思います。
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